カトリック女子跣足カルメル修道会 お告げの聖母修道院
Monastère Notre-Dame de l'Annonciation, Kyoto, Japon
Ordo Carmelitarum Discalceatorum(O.C.D.)
東京女子カルメル会創立50周年記念ミサ
白柳誠一大司教の説教
1983年3月1日、東京・調布の女子カルメル会三位一体修道院にて
昨年の10月でしたでしょうか。私たちは、大聖テレジア、カルメル会の聖女、教会の娘と言われる大聖テレジアがお亡くなりになって400年目を記念し、カルメル会の霊性に触れて、感激を新たにしたところでした。今日、私たちは、このカルメル会が日本に初めての基礎を置いて50年、東京の教会にカルメル会が来て50年を記念し、神様にその恵みを感謝しております。
今から50年前の日本、すなわち、昭和8年(1933年)の頃の日本というのは、私は小さな子どもでしたから、私自身はよく覚えておりませんけれども、やっと明治の復興の兆しも板について国力も増し、日本がやや鼻高々となって来た時代だと思います。全体主義、軍国主義の声も高まりつつあった時代、そしてまた、世相は、恐らく、経済の不況の波、不況の時代と言われた、その時代だったと思います。
そのような時代に、当時の東京教区長であられたシャンボン大司教は、今こそ日本の教会、東京の教会が、しっかりと根を張らなければならない、日本という土壌のなかに教会が育つようにと、観想修道会であるカルメル会を東京の地に招いたのであります。活動会でない、あたかも存在しないかのような静かなこの会が、教会が根付くために必要欠くべからざることを悟っていらっしゃったシャンボン大司教は、カルメル会の来日ということを強く望まれたのであります。
カルメル会は、教会にとって、無くてはならないものです。カルメル会こそ、教会の最も必要としているものです。それは、神様の娘として、神様の心を動かすことができるからであります。
一番はじめにいらっしゃったシスター方は、今の中央協議会の土地、あそこに修道院を開いたわけです。その土地は、今の四谷、麹町教会の前身である聖テレジア教会となりました。その教会がどれほど発展しているか、皆さん方はよくご存じだと思います。そして今は、その場所に、全国の教会の原動力ともなるべき司教協議会、中央協議会というものが入っています。カルメル会は、目に見えない賜(たまもの)を私たちの教会に多く取り次いでくださっただけではなくて、目に見える成果も私たちに残してくれました。
また、長い間、カルメル会がその居を置いておりました石神井の地。今、あそこでは、たくさんの信者の方々、修道者、司祭が、霊的生活の場として活用し、多くの力を教会に与えています。もしもまた、この深大寺の修道院が他に移るならば、この地が一大カトリックセンターとなるかもしれません。
神様は、本当にいつくしみ深い方だと思います。このように、一つの修道会を通して、私たちの教会を豊かにし、そして、この修道会を通して、力を与えてくださっているわけです。
しかし、今から50年前、もう一つ考え合わせることがあります。それは、ちょうど今年(1983年)、私たちはイエズス様の贖(あがな)いの1950年目に当たって、特別聖年を迎えようとしています。今から50年前は、イエズス様の贖いの1900年目に当たっていた特別聖年でした。恐らく、はじめての宣教女、あるいは来日したシスター方は、このキリストの贖いの秘義、それを通して示される神様の愛に動かされて、それを日本の地に伝えたい、カルメルの精神を通して多くの日本人に知ってもらいたい、そういう思いに駆られていたに違いないと思います。
今年、私たちはこの聖なる年を迎えるわけですけれども、私が今まで、このことを機に触れて話しますと、それを聞く人は、あまりピンと来ないわけです。私たちは、あまりにも神様の贖いの大きなお恵みに慣れてしまっている。今、あらためて、特別聖年を通してこの恵みに深くひたろうとするような、そんな余裕すらなくなっているのかもしれません。
考えてみますと、この1950年前に、もちろん歴史的な問題はありますけれども、その時に、神様の御ひとり子が苦しみを受け、十字架にかかり、そして復活してくださったという、その事実、何ものにも代えることのできないその事実。この世紀を通して数々のことが起こりましたけれども、これほど人類社会に大きな影響を与え、決定的なこととなったことはありません。私たちは、もしもこの事実がなかったならば、本当に希望を得ることすらなかった、そのような事実について、私たちは今年、特に思いをめぐらそうとしているわけです。
カルメル会の第一陣のシスター方は、この愛に駆られて、それに促されて、この50年前のカルメル会創立という事業に携(たずさ)わられたと思います。私たちも、このような記念すべき年にあたって、私たち自身の思いを新たにし、ただその恵みを感謝するだけでなく、その恵みを人々に伝え、また、その精神に生きる、キリストの贖いに毎日生きる、という覚悟を新たにすべき時ではないかと思います。
どうか皆さん方、今日のこの喜びの日に、贖いにあずかる者として、さらにこの贖いの恵みを多くの人々に伝えていく、その宣教の熱意に燃えるように。カルメル会のシスター方は、囲いの中で宣教しているわけです。目に見えない力をもって人々の心を動かし、聖なる霊の取り次ぎ手となって祈っていてくださる、そのことに信頼しながら、私たちも、宣教のわざに、勇気をもって従事するようにしたいと思います。